「圧巻のパフォーマンスで金メダルを獲得した」
『圧巻』はこのように漠然と“優れている”という意味で使っている人は多いのではないでしょうか?しかしそれは『圧巻』の正しい使い方とは異なり、本来使うべきなのは『圧倒』です。
また素晴らしい景色であることを表現する際に、『壮観』と間違って「圧巻の景色」という風に使う人も多いです。
では『圧巻』の正しい意味や使い方はどういったものなのか。今回詳しく解説していきます。
『圧巻』の概要
- 誤用:他よりも優れている、圧倒、壮観
- 例文1:「彼は他の選手を引き離す圧巻の演技で優勝した」
- 例文2:「展望台から見える風景は圧巻の一言だ」
- 正しい意味:ひとつの物事の中で最も優れている部分
- 例文:「優勝した選手はトリプルアクセルが圧巻だった」
- 類語:見どころ、見せ場、山場、ピーク、ハイライト、触り、クライマックス、佳境
『圧巻』の本来の意味
『圧巻』は「ひとつの物事の中で最も優れた部分」というのが正しい意味。「見どころ」「山場」などの類語で置き換えて意味が通じるかどうかが重要です。
いまいちピンとこない人も多いと思いますが、『圧巻』の由来を知ると納得できるかと思います。
『圧巻』の由来
『圧巻』は中国の故事で、官吏登用試験の“科挙”での慣習に由来する言葉です。
『巻』とは書物や紙という意味で、ここでは科挙の解答用紙を指します。
科挙は数日に渡って行われ、一人の回答でも何枚も用紙が積み上げられるため、採点が大変です。そこで受験者おのおのの最も優れた部分がすぐに分かるように、担当の者が一番優れた解答用紙が一番上に来るようにしていたのです。
他の用紙を圧す一番上の解答用紙(巻)がその人の最も優れた部分だったということから、『圧巻』という言葉が生まれました。
圧巻はひとつの書物の中で最も優れた部分を指すようになり、それが転じて「ひとつの物事の中で最も優れた部分」という意味になったのです。
この由来がわかると「圧巻の演技で優勝した」「圧巻の風景」というような使い方が誤りであるというのが理解できると思います。
ちなみに科挙に由来する故事成語は他にもあり、特に『破天荒』は『圧巻』と同様に誤用されやすい言葉として挙げられます。
『圧巻』の使い方・例文
つづいて『圧巻』の使い方を例文で紹介します。
- 「試合は負けたけど3Rにダウンを奪ったのが圧巻だった」
- 「花火大会は圧巻の20号玉の花火で幕を閉じた」
- 「その映画は序盤のアクションシーンが圧巻だった」
- 「あの漫才は最後のオチが圧巻でした」
『圧巻』と『圧倒』の違い
最後に『圧巻』と『圧倒』の違いについてまとめます。
どちらも何かを称賛する際に用いられ、「優れている」というニュアンスを含むため間違いやすいのは確かです。
しかし意味や使い方は明確に異なるのできちんと区別する必要があります。
- 圧倒:同列の複数のものと比べて優れている
- 圧巻:一つの物事の中で優れている部分
たとえば選手のパフォーマンスを褒める場合、他の選手と比べる場合は『圧倒』を使うのに対し、その選手の優れていた部分を挙げる場合は『圧巻』を使います。
「あの選手は他を圧倒する活躍だった」
「あの選手の最後のシュートは圧巻だった」
といった感じです。『圧倒』が抽象的、『圧巻』が具体的とも言えます。
ほとんどの人が間違って認識しているため、誤用しても指摘されることはあまりないと思います。しかしそれでも、正しい日本語を心がけるなら注意しましょう。