冬の寒さのピークを過ぎた頃、日本では暖かな風が吹き込み気温が上がる現象が起こることがありますが、この時の風のことを「春一番」と言います。
春一番というと、春頃に吹く最初の強い風、暖かい風と曖昧な現象だと思われがちですが、実は明確な定義があり、気象庁により毎年認定されるものなのです。
今回は春一番の意味や由来とともに、なぜこのような現象が起こるのかなども解説していきます。
春一番とは?
春一番を大まかに説明するなら、
「2月上旬~3月中旬の期間に最初に吹く南側からの暖かい風」です。
春一番が吹いた日は気温が上昇しますが、
事故が起きやすかったり、翌日はまた気温が下がったり独特な特徴があるため、
特別な現象とみなされています。
春一番の定義
実は春一番かどうかの認定は地域ごとに行われており、
明確な定義は若干異なりますが主に5つの項目で判断されます。
- 立春(2/4頃)~春分(3/20頃)の期間
- 低気圧が日本海にある
- 南よりの風(南西~南東から北東~北西に向かって吹く風)
- 風速8m/s以上
- 前日(または平年)よりも気温が高くなる
地域によって風速が6m/sだったり、10m/sだったりすることがありますが、
概ね「時期」「気圧配置」「風の方角」「風速」「気温」の5つの条件です。
春一番の認定には全ての項目に当てはまっていないといけないため、
立春より早く吹いたものや春分の後に吹いたものは認められません。
特定の地域のみ観測されない年もあります。
ちなみに、春一番の条件を満たす風が年に複数回観測されることもありますが、
その時は『春二番』、『春三番』などと呼ばれます。
春一番のメカニズム
春一番の定義はわかったかと思いますが、
色々疑問に感じることが多いのではないでしょうか。
「なぜ気圧配置や風向などが春一番の条件として定義されているのか?」
「なぜ春一番が吹くと気温が上がり、翌日は気温が下がっていることが多いのか?」
これらの疑問は春一番のメカニズムが関係してきます。
春一番は「気圧配置」がポイント
春一番のメカニズムの鍵となっているのが、
この時期ならではの“気圧配置”です。
春一番が吹く瞬間の気圧配置は下図のようになっており、
日本海に温帯低気圧が見られます。
温帯低気圧は寒冷前線と温暖前線を伴う低気圧のことで、
北側が寒気、南側が暖気となっています。
風は気圧が低い方へと吹くので、
南側から低気圧に向けて暖かい風が吹き、気温が上昇するのです。
しかし、この温帯低気圧は西へ速い速度で移動しているため、
翌日には寒冷前線が日本を通過して日本が寒気に見舞われて気温が下がります。
以上が、春一番が吹くと気温が上がり、翌日には気温が下がっているというメカニズムです。
ちなみに、このように暖かくなった後、
寒冷前線の通過により気温が下がる現象を『寒の戻り』と言います。
春一番は図のような気圧配置ならではの現象なのです。
春一番は事故が起こりやすい
春一番と言うとおめでたいものだと思われがちですが、
事故が非常に起こりやすいため、実態としては良いものではありません。
- 春一番の強風
- 急な気温上昇による雪崩
- 乾燥した風による火災
- 寒冷前線付近は大雨と強風による大しけ
などの脅威があるのです。
実際に春一番という言葉が全国的に広まったきっかけは事故によるものです。
春一番の由来
春一番の由来として諸説あります。
特に「春一番」という名称が一般的に使われだしたのは、
1959年3月17日に長崎県壱岐市郷ノ浦町で起きた船の転覆事故がきっかけです。
春に吹いた強風により船が転覆して53名が亡くなり、
漁師らはこの時期の強い南風を「春一番」と呼ぶようになったのです。
さらに1987年に郷ノ浦港近くにある公園に『春一番の塔』が立てられました。
以上が春一番が全国的に使われるようになったきっかけとして有名ですが、
春一番という言葉自体はこの事故以前に使われていました。
1775年には越谷吾山が刊行した『物類称呼』の中に「ハルイチ」という記載があるため、
少なくともこのときには既に使われていたとされていますが、はっきりとした語源は分かっていません。
あとがき
以上、春一番の意味や由来などについてでした。
正月行事には初夢や初詣、書き初めなど、
その年初めて行うものを縁起が良いものとして扱います。
そのため春一番も何となく縁起が良いものと捉えていた人は多いのではないでしょうか。
実際には気候の変化が激しく、身近な危険も多いため十分注意する必要があるのです。
ちなみに、春一番の後に気温が下がる現象は『三寒四温』と関係します。
三寒四温についても詳しく解説しているのご覧ください。
⇒三寒四温の意味や使い方|挨拶状で使う時期・季節はいつ?